上伊那地方の雲
上伊那誌 自然篇 Web版
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上伊那地方の気象
上伊那地方の気温と降水量
上伊那地方の山岳気象
上伊那地方の風
上伊那地方の災害
上伊那地方の気候
年が明け上伊那地方で春のおとづれを感じるのはいつ頃だろうか?
庭先に咲いた春の花々の上に雪が降り積もることもある。
「いつになったら春になるのだろう。」
私たちはそんな思いになってしまう。
しかし、この雪こそ春が近づいている証拠なのである。
じつは、上伊那地方では雪が降るごとに春が近づいていると言える。
上伊那地方で大雪が降りやすいのは、暖かくなり始めた春先である。東シナ海で発達した低気圧が日本の南岸に沿うように通過して大雪をもたらすことがある。
これを、「南岸低気圧」と呼んでいる。
南岸低気圧の前面(東側)では、冷たい北風が吹く。この風が寒気を呼び込んだり、気温が低かったりする場合には大雪になったりするのだ。
しかし、天気の回復は早く、南岸低気圧の中心が通過するとすぐに晴れ間が広がることが多い。
そして、また春が一歩づつ近づく。
ムスカリの花の上に雪が積もった 2015.4.8 南箕輪村
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上伊那地方の春
清涼感を与えてくれる紫陽花 2015.7.2 南箕輪村
じめじめとした梅雨時、清涼感を与えてくれる紫陽花
紫陽花は梅雨時に咲く風物詩。 関東甲信越地方の梅雨入りの平年値は6月8日ごろ、梅雨明けの平年値は7月21日ごろである。StartFragment 上伊那地方で本格的に降水を記録するのは、梅雨明けが近づいた7月だ。EndFragment
梅雨は中国から「梅雨」として伝わり、江戸時代の頃から「つゆ」と呼ばれるようになったそうである。 中国では、黴(かび)の生えやすい時期の雨という意味で、もともと「黴雨(ばいう)」と呼ばれていたが、カビでは語感が悪いので、同じ「ばい」で季節に合った「梅」の字を使い「梅雨」になったという説がある。StartFragment EndFragment
さて、カビが最も繁殖しやすい環境は温度20〜30℃で、湿度80%以上だと爆発的に増殖し、湿度60%以上だとカビがコロニーを作り始めるので、目視で明らかにカビが増殖していくという。EndFragment
上伊那地方の梅雨
梅雨が明けると、日本列島は太平洋高気圧におおわれて本格的な夏を迎える。 夏の太平洋高気圧は、冬に大陸で発生する高気圧と違って非常に背が高く、はるか上空にまでわたって気圧が高く安定している。大平洋高気圧に大きくおおわれると、日本付近を低気圧が通過することが少なくなり、好天が続くようになる。
上伊那地方の観測地点では28〜29日の「夏日」を観測している。
真夏日は、上伊那地方の観測点では14〜15日である。
最高気温が35℃以上になる猛暑日はほとんど見られない。
上伊那地方を吹く風は天気図にもあらわされるような「大きなスケール」の気圧配置だけに支配されているわけではない。狭い地域での地形の違いによって、天気や風の様子が変わる。特に夏は季節風の影響も弱く、付近に前線や台風などの影響が少ない時には風もほとんどなく穏やかである。
このような日には「山谷風(やまたにかぜ)」という日変化する局地風が吹く。
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上伊那地方の夏
秋の空は大気中の水蒸気が少ないため澄んで見える。雲もよく映えて美しい。
また、秋の天気は変わりやすい。
抜けるような青空に浮かぶ白い雲。ことに巻雲は青空によく映える。そんな風景もあれば、秋雨や台風などで青空からしばし遠ざかる時期もある。
秋の初め頃には大雨が多くなる。これは台風が接近しやすいことと秋雨前線が日本付近に停滞していることによる。台風の接近、上陸の前から秋雨前線が刺激されて広い範囲で雨となり大雨による被害をもたらすことがある。
やがて低気圧と高気圧が交互にやってくるようになると天気は周期的に変化する。
秋の深まりとともに帯状の高気圧も現れるようになりさわやかな秋晴れの天気が続くようになる。
秋は霧が多く見られる季節でもある。霧のできかたはいろいろであるが、秋に発生しやすいのは、移動性高気圧に覆われた時に放射冷却によって発生する「放射霧」である。
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上伊那地方の秋
「西高東低の冬型の気圧配置」とは、冬の時期に天気予報の解説では多く聞かれる言葉である。この時に上伊那地方では晴天となることが多くなる。
よく晴れて青空は広がっているのだが、木曽駒ケ岳では雲が広がっている。これは、上空の冬の季節風が山にぶつかることによって発生するものである。
1日の最低気温が0℃未満の日を冬日と言う。言い換えると「マイナスの気温になった日」ということである。
上伊那地方の冬日の日数は札幌と同じくらいである。東北地方の仙台よりも多くなっている。
では、上伊那地方の最低気温はどのくらいになっているのだろう。
アメダス3地点の記録によると最も低い気温を記録しているのはー17.9℃である。伊那のアメダスで2003年1月25日である。10位までの記録では2005年1月1〜3日までの3日間は寒い日が続いたことがわかる。
原因は、冬型の気圧配置により晴天となり「放射冷却」現象が多く発生したことによると考えられる。
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上伊那地方の冬
上伊那地方は東西に3000m級の木曽山脈と赤石山脈をもち、東西に13km、南北に44kmの広がりを持っている。盆地の中央を天竜川が流れている。南北に流れる天竜川と標高差によって上伊那地方全体の気温分布は形成されている。しかし、天竜川に流れ込む多くの河川によって作られた谷間の地形によって気温の分布は複雑になっている。
旧上伊那誌には「午前9時の気温等温線図」が掲載されてる。そこには川の流れに沿った12℃の等温線が描かれている。
当時は上伊那地方の子どもたちが毎日気温を測定していた。その観測結果をもとにして上伊那地方の気温分布の様子が明らかになっていったのである。この気象観測については、雪の結晶の研究で有名な「中谷宇吉郎博士」もその著書の中で大いに評価されている。
さて、現代は観測技術が進歩しアメダスでの観測点の結果をもとに1kmメッシュの天気予報が行なわれている。
そして、気象庁では「平年値(1981〜2010)」をもとに日本全国の平年値を1km メッシュで推定している。 推定にあたっては、観測地点の平年値と標高・勾配などの地形などを考慮している。
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上伊那地方の気温
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気象庁で算出した1kmメッシュによる降水量の推定値を上伊那の地図上に表現して上伊那全域の年降水量の分布図を作成したので図に示した。これは、1981年〜2010年の統計によって算出している平年値である。
これによると上伊那の全域は年降水量1250mm〜2750mmの範囲に入っている。地域的には天竜川の西側(竜西)が、東側(竜東)より多くなっている。
1500mmの等降水量線に注目すると甲斐駒ケ岳の北側から伊那市長谷、駒ヶ根市東伊那、伊那市春近を通って木曽山脈の山麓を北に伸びている。
木曽山脈の駒ヶ岳から越百山にかけては上伊那の多雨地帯となっていて2700mm超となっている。これに対して赤石山脈では1500mm〜2000mmの降水量となっている。
これらのことから、上伊那の平地では南ほど多雨となり北上するにしたがって少雨となる傾向がみられ、西側の山岳が急激に多雨になる傾向があることがわかりる。
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上伊那地方の降水量
上伊那地方の風
日本付近は偏西風の影響を受けることが多いが、伊那谷は東西に標高の高い山があるため、平地では年間を通じて天竜川にそって吹く風がほとんどである。 図は、伊那アメダスの観測結果をもとにまとめたものである。これは1時間毎の風向を10年間積算し集計してある。但し無風を除いている。 これによると南北方向の風が卓越していることがわかる。 最も頻度の多かったのは「南南西」で19.7%、次が「南」で12.5%となっており、南寄りの風が全体の32.2%を占めている。
天竜川に沿うように昼間は南寄りの風が吹く。夜間になると「放射冷却」によって山の斜面の方が谷よりも気温が低くなるので、風は昼間とは逆に山の上から谷間に向かって風が吹く。これが、「山風」である。
伊那谷には天竜川へ流れ込む川が多くあるので、それぞれに谷に沿った風が吹く。川の合流点付近では非常に複雑な風の吹き方になる。
また、「谷風」に比べて「山風」は弱く吹く。
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上空の大気の流れで雲は移動していく
雲をのんびりと眺める時間を作ってみよう。雲の動く速さがわかることもあれば、動かないように見えていることもある。雲の状態を見ることで天気の変化もある程度予測できようになる。
上層雲は、上空の大気の流れによって動く。日本の上空には強い西風(偏西風)が吹いているので、西から東へと動いていく。
(画像は、魚眼レンズを用いて全天を撮影している。撮影した映像の再生を早くすることで雲の動きを見やすくしている。)
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地形の影響で雲は複雑に移動する
上層雲は、偏西風によって西から東へと動いていくが、地上に近い雲は地形の影響を受けるように動く。
画像では西から東に動く雲の下を横切るように雲が動いていくのが見える。
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山の付近で発達する積雲
山に発生する上昇気流によって積雲が成長と衰退を繰り返す。
昼間、成長した雲も日没と共に衰退していくが、上昇気流が強いと積乱雲へと発達することもある。
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山の付近で発達する積雲
山脈が影響して作り出された雲
南北に走る2つのアルプスに、ほぼ垂直に吹く西風によって山岳特有の雲が発生する。
実は、ぽっかり浮かんだように見える雲も激しく動いている。
山岳波動は定常波であるため、雲は空の一部で動かないように見える。
しかし、空気は西から東へ流れているので上昇するときに雲を生じ、下降するときに雲が消えるという現象を繰り返している。
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山の上で雲のできる様子を観察しよう
伊那・駒ヶ根から吹く風は山の斜面を上昇する。上昇気流で雲が発生する。木曽へ吹き降りる下降気流となる時は雲が消える。
映像からは伊那・駒ヶ根側から吹く風が勢いよくそのまま上昇するときには雲が発生・発達し、下降するときには消滅していくことがわかる。
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日本の高山地域の気象観測データは極めて乏しいと言われている。夏山(7・8月)の資料については、比較的得やすくなっているが、1年間を通しての観測資料はごく限られた山を除けばほとんど手に入らない。しかし、中央アルプス駒ヶ岳の千畳敷ホテルではロープウエイ管理のために通年の気象観測を行っている。
山岳では海抜高度が高くなるために気温が低くなる。平地では雨でも山岳では雪として降る量が多くなる。
日本海側の山岳では「西高東低型」の冬型の気圧配置の時には多くの積雪があるが、千畳敷は太平洋側の気候区分に属しているので、それほどの降雪はみられない。
しかし、シベリアからの季節風がよほど強いときには千畳敷でも降雪を観測する。千畳敷で最も降雪が多いのは低気圧や前線が通過するときだ。特に、「南岸低気圧」の通過による降雪が最も多くなる。
(動画は中央アルプス観光から提供されたライブカメラの映像を編集したもの。)
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中央アルプスの気象
平成18年7月15日から24日にかけて、九州から本州付近にのびた梅雨前線の活動が活発となった。この大雨により、長野県、鹿児島県を中心に九州、山陰、近畿および北陸地方などで土砂災害や浸水による災害が発生し、死者が長野県で9名、鹿児島県で5名など全国では23名となる大災害が発生した。
上伊那地方で発生した豪雨災害として記憶に残っている。
この豪雨では上伊那と岡谷で土石流や土砂崩れによる被害が多発し、天竜川や中小河川では護岸の決壊や溢水で多くの人が避難生活を余儀なくされた。時間と共に肥大する雨量で災害がゲリラ化していった。
2006年の梅雨は梅雨明けが平年の10遅れになるとともに、その末期には豪雨を巻き起こした。この原因として考えらえるのは「ジェット気流の蛇行」と「アジアモンスーン」からもたらされる例年以上に湿った空気だと考えられている。
この災害では上伊那地方の多くの小中学校で、臨時休業の措置を行ったり、避難所として対応を行ったりした。このような災害は普段経験することではない。現場の職員は多くの教訓となる体験をした。
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平成18年7月豪雨
上伊那地方の気象災害